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風対プルトニウム:一つの比較

アージャン・マーキジャーニ注1

1999年IEER報告「風力対プルトニウム」(マーク・フィオラヴァンティ著)に基づく。

オリジナル: "Wind Versus Plutonium: A Comparison," Science for Democratic Action vol. 8 no. 1, November 1999

理論的には、風もプルトニウムも人類の長期的エネルギー源になりうる。プルトニウム利用には、IEERの多くの出版物で述べてきたように核拡散の危険性と環境汚染が伴う注2。プルトニウム利用の利点をあげようとすれば、唯一長期的な経済性といえなくはないかもしれない。この要因を詳細に検討するため、IEERではエネルギー源としてのプルトニウムおよび風について、日本の一事例を含む比較研究を計画した。日本を選んだ理由は、陸上風力ポテンシャルが比較的低く、かつ人口密度が高いことである。事故発生時の影響という問題を脇に置くなら、風力はプルトニウム経済よりかなり広い陸地を必要とする。ゆえに経済性の比較でもし日本において風力の方が優れていれば、他の多くの国々や地域にも同じ結論が比較的容易にあてはめられることになる。

IEERがこの比較に用いたのは洋上(オフショア)風力技術であり、その理由は、タービンを洋上に設置すれば、風力について提起されてきた環境問題の多くが対処可能だからである。とくに日本のように土地制約が厳しい国や地域ではこの方法を利用できる。洋上風力発電施設は、1991年以来、デンマーク、ドイツ、スウェーデンで順調に運転されている。

過去半世紀にわたり、世界各地でプルトニウム燃料開発のために莫大な資金使われたのに対し、風力開発にはわずかな努力しかなされなかった。増殖炉だけをとっても数百兆ドルの資金が投じられている。増殖炉とは、自然界に比較的豊富に存在するが原子炉燃料としては役立たない非核分裂性のウラン238を、核分裂性のプルトニウム239に転換し、核分裂性物質の量を正味で増加させるような速度で運転される。さらに使用済燃料からプルトニウムを分離・回収する技術である再処理のためにも、数百兆ドルの資金が費やされた。それでもプルトニウムの商業化は全然見通しが立っていない。そのもっとも熱心な支持者で、再処理業者にとって世界最大の顧客であるフランス電力公社も、英国の再処理会社である英国核燃料公社も、プルトニウムの在庫価値をゼロとみなしている。

商業的に成立するプルトニウム増殖炉計画はどこの国にも存在しない。世界最大の増殖炉2基が旧ソ連にあるが、これはプルトニウムではなくウランを燃料にしたものである。米国をはじめとする多くの諸国は技術的問題、コスト、および核拡散への懸念から増殖炉計画を中止した。

増殖炉の劇的な失敗例の一つに、1995年12月、日本の増殖炉「もんじゅ」で起こった大量の液体ナトリウム漏れと火災による運転停止事故がある。この原子炉は1994年4月に最初の臨界に達した。もう一つの重要な事例は、かつて世界最大の高速増殖炉であったスーパーフェニックスである。1997年6月19日、スーパーフェニックスの経営者はフランスにあるこの施設の運転を永久に停止することを発表した。スーパーフェニックスは1986年から1997年の間に最大出力換算でわずか278日間しか運転ができなかった。スーパーフェニックス計画の総コストは1996年時点で(運転停止発表より前)600億フラン(1994年フラン)、すなわち91億ドルと見積もられていた注3。スーパーフェニックスの廃止および運転終了後コストだけでも95億フラン(約14億ドル)と見積もられ、これは洋上風力なら約82万5千キロワット相当の資本コストを十分賄えるだけの金額である。さらに、この二つのエネルギー源のこれまでの経緯も考えるなら、スーパーフェニックス建設に投じられた資金を風力に投入していれば、今日の風力発電の総量は原子力発電の10倍を上回っていたと思われる。

洋上風力資源の開発は、陸上風力利用に伴う最も大きな影響、つまり風力発電タービン設営のための広大な土地利用という問題の回避につながる見込みがある。風の乱れが少なければタービンの損耗も少く、それだけタービン寿命も伸びる。視覚的影響も、洋上にタービンを設置すれば緩和ないし排除される。ただし、洋上風力タービン設置にも好ましからぬ影響が想定されていないわけではない。たとえば航路および海洋生態系への潜在的な影響がそれである。実証プロジェクトにはこうした影響の評価も盛り込む必要がある。

洋上風力発電施設(ウィンドファーム)のコストは年々低下しており、最初のプロジェクトにおいては8.81〜9.9¢キロワット時だったのが、1997年のスウェーデンのBockstigenプロジェクトでは5.5¢キロワット時まで下がった。洋上風力タービン(風車)は順調に作動しており、1990年代の間にかなりのコスト減をみた。その信頼性も証明された。

これに比べ、増殖炉は、最初の原子力発電が増殖炉によるものだったにもかかわらず(1951年、アイダホ国立工学研究所における実験用増殖炉I号機)、時間と経験を重ねてもコストが下がらなかった。下表は風力発電のコストを、プルトニウム燃料による軽水炉および増殖炉と比較したものである。これらの計算の前提となっている詳細な内容はIEERの報告書に述べられている。

[表]風対プルトニウム:電力コスト

コスト成分
洋上風力
混合酸化物燃料(MOX)軽水炉
増殖炉
資本コスト
4.2¢/kWh
3.8¢/kWh
7.6¢/kWh
燃料コスト(再処理を除く)
適用不可
0.9¢/kWh
0.9¢/kWh
再処理コスト
適用不可
0.7¢/kWh
1.0¢/kWh
運転・維持コスト
1.2¢/kWh
1.5¢/kWh
1.5¢/kWh
MOX使用済み燃料の核廃棄物処理コスト
適用不可
0.2¢/kWh
0.2¢/kWh
廃止コスト
0.14¢/kWh
0.1¢/kWh
0.1¢/kWh
総計
5.54¢/kWh
7.2¢/kWh
11.3¢/kWh

風力の短所の一つは断続性である。電力利用率の低さ――最大出力換算での運転時間の少なさ――は、上記のコスト計算にも織り込みずだが、それでも、蓄電装や他の補完的電力供給源(太陽光やバイオマス燃料などの)を欠いた単独ないし主要なエネルギー源として風力を利用するのは無理である。また、風力を陸上輸送に利用する場合は付加的な投資が必要となるが、これはプルトニウムにもいえることである(以下を参照)。

議論のために、仮に一国のエネルギー政策の健全な目標がエネルギー自給だとすれば、目標達成の要は輸送用燃料の十分な確保であろう。なぜなら、石油は価格変動や供給不安を招きやすく、短中期的に別のもので代替することも大変難しい。もしも、石油を風力かプルトニウムで代替するとしたら交通システムの大変革が必要であるが、これらのエネルギー源はいずれも、自動車部門のエネルギー自給という目標に関し先験的優位性をもたない。

風、プルトニウム、その他どのようなエネルギー源を使うのであれ、自動車に電力を利用する方法は二つある。電気自動車に電力を供給するか、電力を水素に転換した燃料電池を自動車の動力とするかである(「批判的大衆のための科学[Science for the Critical Masses]」参照)。

つまり、プルトニウムか風力を自動車の動力に利用するとしたら、電気自動車への転換もしくは燃料電池の使用という一大変化が余儀なくされる。こうした変化は、エネルギー効率、都市部の大気汚染削減、および/または温室効果ガスの排出削減という観点からは望ましいことである。現在、自動車交通の変革達成のため最も効率的かつ汚染が少ないと思われる方法は、水素を燃料とした燃料電池である(自動車排ガスの表を参照)。そこで我々は、燃料電池による陸上輸送に風力を利用した場合とプルトニウムを利用した場合のコストを比較してみた。

風力由来の水素を使う燃料電池車のコストは、5¢/kWhとすると33ドル/ギガジュール(GJ)、これをガソリン車に換算すると1.66ドル/ガロンである。増殖炉由来の水素を使用するとコストはこの約2倍(60ドル/GJ)かおそらくもっと高くなる。

我々は風力と増殖炉の両技術に伴う長期的な問題について評価を行ったが、風の断続的な性質を補うために必要とされる蓄電の付加的コストを考慮に入れても、風力は増殖炉より魅力的であることが示された。

提言

プルトニウムはエネルギー源としてはとうの昔に捨て去られ、再生可能エネルギーに道を譲っているべきであった。トルーマン大統領が任命したペイリー委員会は、原子力の商業利用の時代が幕を開ける前の1952年、すでに再生可能エネルギーの方が原子力よりはるかに有望との結論に達していた。プルトニウム燃料と増殖炉は、いかなる点からみても原子力ドリームの最悪の失敗例であった。風力、とりわけ洋上風力には経済性も利用可能性もあることがわかった以上、プルトニウムエネルギー技術に対するこれ以上の公金投入は無用であることは議論の余地がない。ただちに中止すべきである。

商業化を目前にし、環境および/またはエネルギー安保の点から望ましいエネルギー技術への公金投入は、研究開発の実績があがり、民間投資によりコスト減が導かれるようになされるべきである。温室効果ガスの排出削減その他の環境目標や核不拡散を達成する方策として、短・中期的に相当量の風力発電施設を設置することは大いに望ましいことである。問題は、納税者および公共料金納付者の資金をどのように投資すれば、これらの望ましい目的達成のコストを最小にできるかである。

政府の過去の風力奨励策の記録は、公共企業体および/または電力会社が、毎年、一定量の電力を競争入札で購買すれば、環境的に健全で核拡散リスクも生じない未来エネルギーへの移行促進という望ましい目標が達成できることを示している。政府が洋上区域を含む地域をあらかじめ指定し、15年から20年にわたる規定価格での電力供給を民間部門に入札させるのである。これは民間の研究開発と能力ベースの競争入札を奨励し、共同資金の効率的運用と組織的なコスト減をもたらす。

米国については、少なくとも2010年までは政府が風力発電から毎年100万キロワットの電力を購入し、この期間内に大規模な評価を行うというのが我々の提案である。場所の選定は、風況、地域エネルギー需要、土地影響が最小の場所、生態系影響など多くの基準によって行えばよい。指定期間の供給保証を入札の条件とすべきである。

この方法は米国で行われている石油探査のリース権入札といくぶん似ているが、風力の場合はおよその資源規模が既知である点が異なっている。よって契約は風力による実際の配電に対して交わされる(石油の場合は探査がリースの目的)。

米国エネルギー省は、2010年までに米国内で配電される風力発電の目標値を1,000万キロワットと発表した。これは主として租税上の優遇措置と、連邦政府の使用電力の5パーセントを賄えるだけの電力を2010年までに風力発電から購買するという連邦プログラムによって達成されるだろう。2010年までに風力発電の規模を増大させるという目標自体は健全だが、そのために選択した方法は、IEERが提案する方法よりもコストがかかる(この点についてはIEERの風力に関する報告を参照)。

 


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Posted August 29, 2001
Updated October 31, 2001


注1
マーク・フィオラヴァンティ『風力対プルトニウム:日本における風力ポテンシャルの検討、および洋上風力とプルトニウムの利用の比較』(1999年1月IEER発行)Marc Fioravanti, Wind Power versus Plutonium: An Examination of Wind Energy Potential and a Comparison of Offshore Wind Energy to Plutonium Use in Japan, IEER January 1999. 。とくに断らない限り、すべての関連資料は本報告に盛り込まれている。

注2
プルトニウム廃棄に関する記事や関連資料は、以下のIEERのウェブページを参照。
http://www.ieer.org/latest/pu-disp.html

注3
米ドル以外の通貨による経済データは、購買力平価交換比率で米ドルに換算されている。